古いアパートで起こったアリ騒動にはご用心

大学進学を機に田舎の実家を出て、地方都市で一人暮らしをしていた時のことです。
2階建ての4世帯入居タイプのアパートに住んでいました。
築何年なのかは分かりませんでしたが、その当時ですでに古いアパートでした。

私の部屋は2階だったのですが、なぜかアリが出る部屋でした。
なので、お菓子の食べ残しをそのままにしておいたり、甘味のゴミは洗って捨てなければすぐにアリが涌いてしまいました。
アリの行方を追ってみると、畳のへりのすき間から出入りしているようです。
畳の下にアリの巣があるのだろうか、と思いはじめは殺虫剤で対処していたのですが効果はあまりないようでした。
田舎の実家じゃあるまいし、ある程度の地方都市のアパートの2階でアリと共存するとは予想外でしたが、とにかくなんとかしなければなりません。

そこで「アリの巣コロリ」を使ってみることにしました。
アリの習性を利用したこの害虫駆除剤であれば、巣を根元から絶つことが出来るはずです。
3箇所にトラップをかけてアリたちを待ちます。
様子を伺っていると、アリたちが徐々に吸い寄せられるように「アリの巣コロリ」にやってきました。
アリたちがヤバイ毒をせっせと運ぶ姿を横目で見守ります。
歩いているアリたちを踏みつけないようにと気をつけながら、1週間が過ぎた頃には私の部屋からアリたちの姿は消えていました。

その後はアリ問題に悩まされることも無く過ごしていたのですが、ある日のこと、朝方なぜか寝苦しさを感じウトウトしていると、体にチクチクした感触を感じました。
寝ぼけていたのではじめはよく分からなかったのですが、だんだん意識がはっきりしてくると体のあちこちに何かが這うような感じがしてきました。
?と思い何気に腕を見てみると、アリが這っていました。
一気に目が覚めて起き上がり、布団をめくると驚いたことに布団の中は無数のアリたちで埋め尽くされていました。
田舎育ちで虫への免疫力は強いと思っていた自分でしたが、さすがに「ギャーっ!」となりました。

その間にも体中はチクチクしています。
慌ててパジャマを脱ぎましたが、今度は髪の毛の中もモゾモゾしています。
頭を下にして髪の毛を払うと、パラパラとアリが落ちてきます。
アリたちの動きを見てみると、アリはベッド横の窓から黒い列をなしています。
目で追うと窓の桟のすき間から出入りしている様子です。
窓を開けてみると、アリがアパートの壁を伝って私の部屋に上ってきていました。
なぜ、2階にある私の部屋なのか?隣じゃ違うのか?って言うか、1階はスルーなのか?
頭の中は???状態です。

取りあえずアリたちの道筋に殺虫剤をまいて、「アリの巣コロリ」を再び購入して設置しました。
しかし、その後すぐに体調を崩し数日間寝込んでしまいました。
喉の痛みと高熱で病院でも風邪と診断されました。
血痰まで出る喉の痛みははじめてでしたが、起き上がれるようになった頃にはアリの姿はありませんでした。
窓からも這い上がってきている様子はありません。
取りあえずアリ問題は解決したようでしたが、それ以来アリが苦手になりました。
その後、アリに刺されると体質によってはリンパが腫れて熱発を伴う場合もあると知りました。
はじめに部屋にいたアリも、外から入ってきていたアリも、よく見かける黒いタイプのアリだったので在来種だと思いますが、風邪だと思っていた喉の痛みや高熱はアリに刺されたことが原因だったのかどうか。

就職とともにそのアパートは出ましたが、それから20年以上経ったつい最近、その付近を訪れる機会がありました。
あのアパートもう無いだろうな、と思いながら様変わりした近所をブラブラ歩いていると、なんとまだあのアパートは健在していました。
しかも、まだ人も住んでいる様子です。
もしかしたら内装工事しているのかもしれませんが、その外見は私が住んでいた当時とまったく変わっていませんでした。
変わっていたのは「○○荘」というアパート名が「○○ハイムⅡ」となっていたことです。
「Ⅱ」と言うのですから「Ⅰ」があるはず、奥に入って行くと「Ⅱ」よりはまだ少し新しいと思われる「Ⅰ」のアパートがありました。
「Ⅱ」ももう少し新しくもらえれば良いのにな、と思いながらも、あの恐怖のアリ騒動アパートが健在なことにちょっと驚きながらも楽しい気分になりました。

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